「うっ・・・。」


大変だ・・・。目に何かが入ったらしい・・・。
俺はそのことを跡部部長に伝え、少し部活を抜けた。

部室に戻り、俺はコンタクトレンズを外した。
コンタクトをしていると、目に何かが入ったとき、一苦労する。本当に厄介だが、視力が低下してきたのも、自分の所為だ。
とりあえず、コンタクトを洗って着けなおせば、大丈夫になるだろうと、俺は洗ったコンタクトをはめ直した。


「日吉って、コンタクトだったんだー!!」


突然、俺の後ろで、そんな声が聞こえ、俺は驚いた。
この声は、間違いなく、マネージャーの
唯一、女だからわかるということもあるが・・・。正直、俺はコイツに惹かれているらしく、それぐらいわかってしまう。・・・本当に悔しいことだが。


「視力良くないんだ!」

「・・・そういうことだ。」

「眼鏡は・・・?」

「家でしている。」

「今は持ってないの??」

「そうだな。家でしか掛けないからな。」

「勿体無い!!」


は?何が勿体無いと言うんだ・・・?
しかも、今の返答の速さは何だ・・・。


「コンタクトが着けれなくなることもあるでしょ?!せっかく眼鏡を持ってるんだったら、明日からは持ってきた方がいいって!!」


・・・そういう意味で、勿体無いのか?
そういう場合、勿体無いとは言わないと思うが・・・。まぁ、コイツの発言が変なのは、いつものことだ。
それでも、惹かれている俺は、もっと変なのかもしれないが・・・。


「たしかに、そうかもしれないな。」

「でしょ?」

「じゃあ、明日からはそうする。」

「うん、絶対そうしてね!」


なんで、はそこまで言うんだ・・・?よくわからないが、俺はの言うことには素直に聞いてしまって、その言葉に頷いてしまった。・・・本当、自分が腹立たしい。


「そうだ!もう、目は大丈夫になった?」

「・・・そうだな。」

「そっか。それは良かったね!それじゃ、残りの部活、頑張って!」


にそう送り出され、俺は部室を出た。そして、俺は残りの部活を熱心に取り組んだ。
・・・別に、に言われて、そうしたわけじゃない。俺は、いつでも部活は集中してやっている。
なんてことを考える辺り、言い訳がましいよな、俺・・・。

その日、俺はの言われた通り、鞄に眼鏡を入れ、明日の準備をし終えてから眠りについた。

そして、は早速、朝練前に聞いてきた。


「眼鏡、持ってきた?」

「あぁ。」

「1回、見せて!」

「見て、どうするんだよ・・・。」

「見てみたいんだって!ね?見るだけだから!」


にそんな風に頼まれて、断れるわけもなく。俺は、鞄から眼鏡を取り出し、に渡した。


「へぇ〜・・・。こんな眼鏡してるんだねぇ・・・!」


やけには嬉しそうに俺の眼鏡を見ているが・・・。眼鏡なんて見ていて、楽しいのか?
もしかして、は眼鏡が好きなんだろうか・・・?それならば、忍足さんに眼鏡を掛けるのを止めてもらわなければ。どうせ、伊達らしいから、な。


「ねぇ。ちょっと、掛けてみてもいい?」

「度が強いと思うが。」

「大丈夫。眼鏡を掛けて、周りを見るわけじゃないから。ちょっと掛けるだけだから。」

「別にがいいなら、そうすればいい。」

「ありがと。・・・似合う?」


俺が家でしか眼鏡を掛けないのは、あまり眼鏡が好きじゃないからだ。・・・だが、それは使い勝手の点であって、別に誰かが眼鏡を掛けているのが好きじゃないとか、そういうことは思わない。要は・・・。


「・・・見慣れはしないが、別に悪くはないと思う。」

「ホントに?ありがとう!」


こんな言い方でも、喜んでくれるに、嬉しくなりそうになっている俺は、本当にどうにかしてしまっている・・・。


「日吉も掛けてみて?」

「今、コンタクトしてるんだぞ?」

「だから、ちょっと掛けるだけだって!」

「・・・・・・一瞬だからな。」

「うん、ありがとう!」


そう俺は、使い勝手の点で、外では掛けないだけだ。今は、別にこれで過ごすわけじゃないから、と自分に言い聞かせながら、俺は眼鏡を掛けた。


「わぁ・・・!!」

「なんだ、その反応は・・・。」

「・・・って、外すの早いって!!」

「一瞬と言っただろう。」

「一瞬すぎる!お願い!!もう1回だけ・・・!!」


懇願と言っても過言ではないほど、が頼んできたので、俺はため息を吐き、渋々眼鏡をもう1度掛けた。・・・俺、に甘すぎないか?


「おぉ・・・!!」

「だから、何なんだよ。その反応は・・・。」

「いやぁ・・・。やっぱり、印象変わるなぁ、と思って。・・・ねぇ、今日1日は眼鏡で過ごしてみない??」

「却下だ。」

「なんでー??!」


そればっかりは、俺も従うことはできない。そう考えながら、今度こそ俺は眼鏡を外した。
眼鏡だと、運動中は特に、不便だと感じることが多い。


「部活がやりづらいだろ。」

「じゃあ、授業中だけでいいから!!」

は違うクラスだろ・・・。」

「大丈夫!休み時間に、見に行くから!!」

「・・・わざわざ?」

「隣のクラスなんだから、すぐに行けるもん。」


そこまで言われても、まだ面倒なことはある。


「いつもと違って眼鏡なんて掛けていたら、聞いてくる奴もいるだろう。ソイツらにいちいち答えるのも鬱陶しい。」

「じゃあ、私が答えるから!『今日は、目の調子が悪くて、いつもはコンタクトしてるみたいなんだけど、眼鏡をしてるんだよね?』って言うから!」

「・・・・・・そこまでする必要あるのか?」

「だって、何だか新鮮なんだもん。今日ぐらいいいでしょ?」


そんな風に、目を輝かせて言われると・・・。


「・・・・・・・・・今日だけだぞ。」

「やったぁー!!ありがとう、日吉!!」


・・・はぁ。本当に、ため息が出る。いつから、俺はこんな奴になってしまったんだ・・・。
だが、そんなことを本当は残念に思っていないことが、最も残念なことだな・・・。
そんな矛盾したことを考えた俺は、朝練を終えた後、わざわざコンタクトを外し、眼鏡を掛けた。


「うん・・・。やっぱり、新鮮!」


俺の横を歩くは、上機嫌にそう言った。・・・がこんなに喜んでくれるのなら、今日ぐらいいいか、と思えた自分が本当にの所為で変わってしまったと思った。

は本当に、毎休み時間にこちらの教室に来ては、俺に質問をしてきた奴に答え、それ以外は俺と話していた。・・・と言うか、俺を見に来ていた。いや、俺ではなく、眼鏡を掛けている俺、か・・・。
同じ自分だが、いつもならがこんなに来てくれることはなく、少し今日の自分に嫉妬してしまいそうだった。・・・それより、眼鏡に嫉妬するべきか?
よくわからないが、少なくとも、今日はと過ごす時間が長いことを嬉しく思っていたのも事実。

だが、は何故ここまでする必要があったのか?


「・・・。」

「ん??」

「・・・・・・部活のときは、コンタクトに戻すからな。」

「わかってるよ。」


俺は、そのことを上手く聞けずにいた。


「やっぱり、運動するときはコンタクトの方がいいんだね。」

「そうだな。今日は、体育が無くて良かったな、。」

「それぐらい覚えてたよー。」


・・・覚えてた?それ、おかしくないか?だって、は・・・。


「なんで、が俺のクラスの時間割を覚えてるんだよ?」


だって、は俺とは違うクラス。隣のクラスの時間割なんて、覚える必要は無いだろ。あるとしたら・・・。それは一体、何のために?


「時間割は覚えてないって!体育は特別。2クラス合同でやったりもするし、今日はどこのクラスが体育なのか、って大体覚えてるだけだよ。」


なるほど、そういうことか。俺は危うく、自分に都合のいい勘違いをするところだった。
もしかして、は俺のクラスだから、時間割を覚えていてくれたんじゃないか、と。
そんなことはあるわけもないのに。全く・・・。


「だから、今日眼鏡を掛けてもらおうと思ったんだー♪」


相変わらず、楽しそうにしているを見て、俺は何を期待していたんだと自嘲した。
そして、何かが吹っ切れた俺は、ずっと気になっていたことを聞いた。


「だからと言って、ここまでする必要は無かっただろう?もわざわざ俺の教室に来なければならないし。」

「隣のクラスぐらい、すぐに行けるよ。」

「そうだとしても、だ。特に俺に用があるわけでもないのに、俺の所へ来なくてはならない。そんなの面倒だろう?」

「そんなことないよ。日吉さえ良ければ、私はいつでも日吉の所へ行くし。」

「俺は別に構わないが・・・。」

「それなら、良かった。」


俺は構わないどころか、むしろ・・・。いや、待て。今のは・・・?


・・・。」

「ん?なぁに??」

「俺が良ければ、いつでも俺の所に来るっていうのは、さすがに言い過ぎなんじゃないのか・・・?」

「そう?まぁ、どうしても行けないこともあるもんねぇ・・・。」


いや、そういうことではなく・・・。


「じゃあ、来れる場合は、いつでも来るのかよ。」

「日吉が良ければ、私はいつでも。」

「それって、どういう・・・。」

「それじゃ、日吉。私は、そろそろ教室に戻るわ。次で授業も終わりだし、もうコンタクトに戻していいからねー。」


俺の質問も遮り、は手を振りながら、教室に戻って行った。
本当に、俺さえ良ければいつでも来る、というのは、一体どういう意味なんだ・・・?俺は、自分を落ち着かせ、少し考えを整理しようと思った。

まず、は俺の所へ来るのは面倒とは思わないらしい。しかも、俺さえ良ければいつでも来るらしい。・・・つまり、眼鏡を掛けていなくても、ということだろう。

では、なぜ俺に眼鏡を掛けさせる必要があったのか?の答えは「新鮮だから」。・・・本当にそれだけで?じゃあ、例えば他の部員がそうしていれば、同じようにしたのか?・・・それはわからない。

そもそも、どうして、俺が眼鏡を掛けているとバレたんだったか。・・・それは、に「眼鏡は持ってないのか」と聞かれて、俺が「家で使っている」と答えたから。

視力が悪いとバレたのは?・・・俺がコンタクトをしているところを見られたから。

じゃあ、どうして、そのコンタクトをしているところを見られたんだ?・・・俺がコンタクトを着け直そうとしているところに、たまたまが来たから、だ。

・・・いや。よく思い返せ・・・。は、部室を出る前に何と言った?・・・たしか、「もう目は大丈夫になった?」と言っていた。つまり、俺を心配して来た、ということだろう。偶然ではなく、マネージャーの義務として、来たのだ。

本当に・・・?俺が「目が痛い」と伝えたのは、マネージャーのではなく、跡部部長だ。それに、練習の邪魔にならないように、俺はできるだけ速やかに、そのことを跡部部長に伝えたつもりだ。おそらく、周りにいた人間も俺が何を言いに行ったかは、わからなかったはず。

俺がどうして部室に戻ったか、その理由を知っているのは、跡部部長のみ。それなのに、なぜは俺の目のことを知っていた?それを知るには、跡部部長に聞くしかない。

そんなことをする必要は?・・・マネージャーとして。そう言われれば、そうだ。だけど、俺はどこかで期待してもいいのでは、という結論を出してしまいそうになる。

・・・・・・・・って、授業に集中しないで、俺は何を考えてんだ・・・。

だけど、そもそもいつでも俺の所へ来る必要はあるのか・・・?これは、俺に限ってのことじゃないのか?

なんてことを考えて、結局、俺はその後の授業をぼんやりと聞きながら過ごしてしまった。

授業後、急いでコンタクトに戻し、いつものように部活へ行こうとした。
いつものように、というのは、もちろんと一緒に、ということだ。
朝練後も放課後の部活も、隣のクラスということで、とは自然と一緒に向かうことになっていて、それは今日もそうだった。


「日吉!部活、行こうー!」

「あぁ・・・。」


それは好都合なのか、不都合なのか。俺にはわからないが、少なくとも先ほどの疑問を聞く機会は増えたということだ。


「・・・。」

「ん?何?・・・あ!そういえば、もうコンタクトに戻したんだよね?」

「・・・あぁ。」

「そっか、そっか!本当に、今日は面倒なことさせちゃって、ごめんね?でも、私はおかげで楽しかったよ!ありがとう。」

「・・・別に。」

「って、日吉が喋りかけてたんだったよね?ごめん、ごめん。・・・で、どうかした?」


先にに話をされてしまったが、俺にも機会はあったようだ。これを聞いたところで、どうなるかはわからないが・・・はっきりしてしまいたいんだ。


「・・・は、さっき、俺がいいならいつでも来る、って言ってたよな?」

「うん、言ったねー。」

「それは、どういう理由で?」

「理由?う〜ん・・・日吉だから、っていうのはダメ?」

「俺・・・だから・・・?」

「そう!日吉だから!日吉だから、日吉の所に行きたいって思うの。」

「それって・・・は俺のことを・・・。」


どう思ってるんだ・・・?そう聞こうとしたが、別の誰かが遠くからを呼び、俺はその先を聞けなかった。


ちゃ〜ん!!ちょう来て!!緊急事態、緊急事態!!」

「はい!わかりました!すぐ行きます!それじゃ、日吉。また後でね!」


・・・・・・あの眼鏡・・・!!計ったように・・・!!!
俺は、この瞬間、また眼鏡が嫌になった。しかも、後でに様子を聞くと、緊急事態などではなく、いつもの忍足さんのくだらない話だったらしい。・・・は、そんなことは言っていなかったが、俺からすれば、どうでもいい話だと思う。
何にせよ、今度こそ、俺は必ずの気持ちを聞いてやる。・・・下剋上だ。

・・・とその前に。まずは、忍足さんに下剋上だ。・・・次のラリー、絶対容赦しねぇ!(なんで、俺まで?!! By.忍足)













 

ついに書けました!40.5巻より、日吉くんの眼鏡ネタ!!(笑)
いやぁ、これを知ったときは、かなりテンション上がりましたね。私も「日吉が眼鏡を掛けてくれたら・・・」と考えたことはありますから。むしろ、「日吉は読書とかDVD観賞とかで視力が悪くなっててもおかしくない!」と思っていたので☆
とにかく、眼鏡万歳です(笑)。

それで、今回はギャグっぽくしようと思ったんですが・・・。ギャグはギャグで難しいです。と言うか、私の場合、ギャグにしようと思うと、ほぼ忍足さんに頼ってしまいます(笑)。
ギャグももっと楽しく書けるよう、頑張ります!

('08/03/16)